経済産業省から2018年にDXレポート ~ITシステム「2025年の崖」が発表されて以来、DX(デジタルトランスフォーメーション)はIT業界を問わず全業界・業種でバズワードとなっています。今やどんな企業でもデジタルで事業、サービスを変革していくことが必要だと言われています。
そして、DXの推進には「DX人材」が不可欠だと認識されており、高度なIT技術を持つ人材は新卒であっても好待遇を得るなどエンジニアを含むIT人材の採用ニーズは高騰しています。
しかし、いちエンジニアという立場からすると、DXの定義やDXを実施するにあたりエンジニアはどういったスキルセットが必要なのかが不明瞭です。
そのヒントが経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2022年12月21日に公開したレポートである「デジタルスキル標準(DSS)」から得られそうなのでまとめてみました。
DX時代のエンジニアに必要なスキルとは何か?
「デジタルスキル標準(DSS)」で定義された「DX推進スキル標準」によると、エンジニアにはDXを推進するために従来のプロジェクトマネジメントやソフトウェア開発スキルに加えてデータ理解・活用(集めたデータの統計情報の解析、洞察スキル)、SREプロセスおよびセキュリティ等のスキルが求められているようです。
「デジタルスキル標準(DSS)」とは
まず、「デジタルスキル標準(DSS)」とは何なのかについて説明します。
「デジタルスキル標準(DSS)」とは、DXを「データやデジタル技術を活用した製品・サービスや業務などの変革」と定義し、 DXの推進において必要な人材類型、ロール等をまとめた資料です。経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)がとりまとめています。
「デジタルスキル標準(DSS)」はITに関して知見を持った有識者によるWGによる策定されており、
・富士通
・NTTデータ
などの大手IT企業(SI企業)の有識者のみでなく、
・トヨタ自動車
・ボストンコンサルティンググループ(BCG)
・オムロン
・出光興産
・メルカリ
・星野リゾート
などの様々な業界の有識者が参画しており多角的な見地での意見が集まっていると考えられます。
また、ソフトウェアエンジニアの有識者には、
・羽生田栄一氏(UMLモデリング、オブジェクト指向等をテーマに執筆)
・広木大地氏(「エンジニアリング組織論への招待~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタング」を執筆)
・藤井崇介氏(DX推進の好事例として取り上げられることの多い星野リゾートでエンジニア組織を立ち上げ)
などが参画されており、実際にソフトウェアエンジニアリングの最前線で活躍している方々が策定に携わっているようです。
「DX推進スキル標準」におけるDXに必要な人材とは?
「DX推進スキル標準」ではDXの推進に必要な人材類型を以下の5類型にまとめています。
目を引くのは従来の枠組みで存在したITアーキテクトから一歩目線を上げたビジネスアーキテクトが登場している点と、サイバーセキュリティをこの人材類型に含めている点です。「サイバーセキュリティに関するリスクに対処すべし」というメッセージを感じます。
人材類型 | 説明 |
ビジネスアーキテクト | DXの取組みにおいて、ビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(=目的)を設定したうえで、 関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する人材 |
デザイナー | ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材 |
データサイエンティスト | DXの推進において、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う人材 |
ソフトウェアエンジニア | DXの推進において、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材 |
サイバーセキュリティ | 業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材 |
個人的に印象的だったのはソフトウェアエンジニアに関する以下の説明です。
他の人材類型や他の専門企業の力を借りずに、自分自身の手で、迅速に、競争力のあるソフトウェアを創り出せることは、「ソフトウェアエンジニア」の最大の強みである。「ソフトウェアエンジニア」として活躍し続けるためには、この強みの維持・獲得に向けた継続的なスキルアップが求められる。
参考:経済産業省「デジタルスキル標準ver1.0」
ソフトウェアエンジニアは創れてなんぼってわけですね。
また、「ソフトウェアエンジニア」という名称については、以下のような想いが記載されていました。
今後、物理世界の様々な領域がデジタル化される流れの中で、多様なハードウェアやデバイス等を扱えることも重要であるものの、 それ以上に、差別化できる成果を生み出す上では、ソフトウェアの役割がますます重要となることを意識した
参考:経済産業省「デジタルスキル標準ver1.0」
(中略)
「ソフトウェアエンジニア」という呼称には、 ソフトウェアの要件定義から設計、実装、保守・運用まで、幅広い領域や工程に対応できるエンジニアというニュアンスも含まれる
個人的にも「エンジニアはソフトウェアの要件定義から設計、実装、保守・運用まで、幅広い領域や工程に対応できるべき」と思っているので、共感しながら読んでいた箇所です。
ソフトウェアエンジニアに求められるロール
次に人材類型に求められるロールを見てきます。
「DX推進スキル標準」では各人材類型をさらに詳細化したロールという枠組みで定義しており、ソフトウェアエンジニアについては以下の4タイプが定義されています。
ロール | 説明 |
フロントエンドエンジニア | ソフトウェアやアプリケーションついて、ユーザーから見たフロント領域(インターフェース側)の機能の開発を担う |
バックエンドエンジニア | ソフトウェアやアプリケーションのサーバー側の機能の開発を担う |
クラウドエンジニア/SRE | クラウドを活用したソフトウェアの開発・運用環境の最適化を担う |
フィジカルコンピューティングエンジニア | 物理空間のデジタル化を担う |
クラウドクラウドエンジニア/SREをロールとして定義している点から昨今のDevOpsなどのシステム開発の流行ポイントを取り入れていることが分かります。
ソフトウェアエンジニアに求められるスキル
前置きが長くなりましたが、本題であるDX時代のエンジニアに必要となるスキルを見ていきしょう。
評価対象となっているスキル項目が多いので、説明力のみではなく実践力が求められる(重要度がb以上)項目にピックアップして下図にまとめました。(ヒューマンスキルが重要だという点は重々承知ですが理解のために意図的に省いています)
上図より、もともとエンジニアに求められていた「プロジェクトマネジメント」や「ソフトウェア開発」のスキルについては”どちらかがあればよい”ではなく、濃淡はあれど「プロジェクトマネジメント」と「ソフトウェア開発」”どちらもできる”ことが求められていると分かります。
また、特に「サブカテゴリー:ソフトウェア開発」のスキル項目については総じてa~b(実践力が必要)の高いレベルが求められています。これは自らの手でサービスを開発できるという強みを保持するためには、高い実践力が求められるということだと思います。
DX推進という文脈で、新たに求められるスキルとしては「データ理解・活用」、「SREプロセス」と「セキュリティ設計・開発・構築」が該当しそうです。
「データ理解・活用」はデータを活用して新たに事業・サービスを生み出すという観点から必要だと考えられます。「SREプロセス(*)」はDevOpsやCI/CDがメジャーになっているため、これらの考え方を運用として取り入れるという観点から必要なスキルだと考えられます。また、「セキュリティ設計・開発・構築」については開発時からセキュリティを考慮して設計するという観点から必要だと考えられます。
* 開発と運用が協力し、リリースサイクルの向上とサービスの安定を目指すスキル
エンジニア(自分)はどうアクションすべきか
最後にエンジニア(自分)はどうアクションすべきかを考えてみます。
今後のトレンドを考えると、引き続きDXの波は続きそうですし、上記で挙げられたスキルを持ったソフトウェアエンジニアへの需要は高そうです。そのため、今の業務でも求められるプロジェクトマネジメントだったり、ソフトウェア開発におけるスキルについてはブラッシュアップしつつ、不足しているスキルを取りに行く動きが必要だと思っています。
特に、先述の「データ理解・活用」、「SREプロセス」、「セキュリティ設計」等のスキルについても実践できる程度まで保持しておくことが求められそうです。
まずは書籍等から概念を掴み、個人開発や案件参画につなげていきたいですね。積読している本たち(エヴァンス本とかセキュアバイデザインとか、、、)を読まねばと思っています。
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