半導体の新会社ラピダス(Rapidus)とは、日本の半導体産業の期待を背負う新会社について

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テレビやビジネス雑誌などで半導体の新会社である「ラピダス(Rapidus)」に関する番組や記事を見かけることが多くなりました。

しかし、テレビやビジネス雑誌などを見ていても、ラピダスのグローバル市場での勝算や設立の経緯について焦点が当たるばかりで、そもそも「なぜ半導体の新会社の設立がこれほど話題になっているのか?」という点が分かりません。

そこで「半導体とは何か」「新会社のラピダスには何が期待されているのか」という観点で情報をまとめてみました。

半導体とは、ラピダスとは何か

経済産業省が出している文書において、半導体は以下のように説明されています。

半導体は、5G・ビッグデータ・AI・IoT・自動運転・ロボティクス・スマートシティ・DX等のデジタル社会を支える重要基盤であり、安全保障にも直結する死活的に重要な戦略技術。

引用:経済産業省半導体戦略(概略)

デジタル社会を支えるために必要なものであり、技術の有無が国家間の安全保障に影響するほど重要なものということは何となく分かりますが、「そもそも何なの」というところは疑問が残りますね。

また、ラピダスについても説明があります。

・次世代半導体の量産製造拠点を⽬指すため、国内トップの技術者が集結し、国内主要企業からの賛同を得て設⽴された事業会社。
・今回、2020年代後半の次世代半導体の製造基盤確⽴に向けた研究開発プロジェクトの採択先として決定。
・ LSTCと両輪となって、我が国の次世代半導体の量産基盤の構築を⽬指す。

引用:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略の現状と今後


国内のトップ技術者が集結して次世代半導体の開発を担う会社だというところは理解できましたが、そもそも次世代半導体とは何か、というところが引っ掛かりますね。

まずは半導体について詳しく見ていきましょう。

半導体とは何か

そもそも、物質にはアルミ、銅などの電気をよく通す「導体」と陶器、ゴム、ガラスなどの電気を全く通さない「絶縁体」がありますが、 「半導体」とはその名の通り「導体」と「絶縁体」の中間の性質を持つ物質のことです。

半導体は一定の条件(光、音、熱、電圧の変化など)で電気抵抗率(電気の通しやすさ)を変えることができます。半導体の材料にはシリコン(ケイ素:Si)がよく使われます。

引用:日立ハイテク「半導体の性質

半導体の用途

半導体は暮らしの様々なところで使われています。

例えば、エアコンは温度センサーで部屋の温度を検知して空調を調整しますが、このセンサーにも半導体が使われています。また、パソコン、自動車を動かすCPUやメモリ、照明などに使われるLEDなどにも半導体が使われています。

もう少し具体的に見ていきましょう。

例えば、スマートフォンやテレビなどの電化製品には、
・電気の流れを一方通行にするダイオード
・電気の流れを増幅および流れを電気の切り替えるトランジスタ
が含まれますが、これらは半導体を組み合わせて作られています。

ダイオードのイメージ画像
トランジスタのイメージ画像

スマートフォンには一台当たり数十億個(!)のトランジスタが搭載されており、トランジスタやダイオードによりスマートフォンの操作に必要な複雑な計算と記憶を瞬時に行うことが可能になっています。

スマートフォンなどの電子機器には、数mm~数十mm程度の薄型シリコンチップに数千~数千万の素子(ダイオードやトランジスタなどの電子部品)を搭載した LSI(largescale integrated circuit:大規模集積回路)が使われています。

LSIのイメージ画像(長方形及び正方形の平べったい黒いやつ)

一つ一つの素子を小さくできれば、同じ大きさのシリコンチップであってもより多くの素子を搭載できます。素子を微細化し、LSIに多くの素子を搭載することで性能の向上と消費電力の削減が見込めるため、半導体業界では、この半導体素子をいかに微細化できるかを競い合っています。

AIやスーパーコンピュータにはより高性能でより消費電力を削減した半導体が求められており、これら最先端の半導体は次世代半導体と呼ばれています。ラピダスも2nmノード半導体という超微細な次世代半導体の研究開発を推進すべく設立された会社です。

ラピダスへの期待

半導体の概要を理解できたのでラピダスに話を戻しましょう。

先ほど、半導体素子の微細化が競争の方向性になっていると述べましたが、ラピダスは2nmノード半導体の集積化技術と製造プロセスの短縮技術の研究開発を期待された会社です。

半導体は製造方法が転換期(次章で詳しく説明します)を迎えており、量産技術をいち早く確立できれば、国際的なシェアを取り戻せるチャンスがあります。

日本の半導体産業は1990年代前半に世界トップのシェア(なんと50.3%!)を誇っていましたが、徐々に国際的なシェアを落としています。そのため、どの企業も量産化ができていない2nmノード半導体の研究開発の成果を挙げ、世界的なシェアを取り戻すことが期待されています。

引用:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略の現状と今後

半導体製造の転換期とは

次に半導体製造が迎えている転換期について説明します。ラピダスはこの転換期の波に乗ることで、半導体製造のシェアを獲得を狙っています。

スマートフォンなどの電子機器には数十億のトランジスタが使用されていると先ほど述べましたが、トランジスタ(*)が微細化していく中で、製造方法がFinFET方式と呼ばれる方式からGAA-FET方式へと変わろうとしています。
* 正しくは電界効果トランジスタ

トランジスタはざっくり言うと外部から電圧を加えることで電流の流れを制御することができる電子素子です。トランジスタには端子が3本あり、それぞれソース、ゲート、ドレインと呼ばれます。トランジスタではゲートにかける電圧を制御することで、ソースからドレインに流れる電流を流したり、止めたりすることができます。

引用:intel「トランジスターの仕組み

FinFET方式からGAA方式へ

では、FinFET方式とGAA方式とはどういった製造方法なのでしょうか。

下図はそれぞれPlanar方式(旧型の方式)、FinFET、GAA(Gate-All-Around)のトランジスタの構造を示した図です。左から右に電流が流れ(ソースからドレインへ)、ゲートに電圧をかけることで電流を流したり止めたりすることができます。

引用:SEMICONDUCTOR ENGINEERING「Chipmaking In The Third Dimension

ここで注目してほしいのは、FinFET方式では電流が流れる灰色の直方体(チャネルと呼ばれる)が下の青色の部分と接している点です。GAA方式ではチャネルはGateにすっぽりと包まれています。

ここにGAA方式のメリットがあります。

GAA方式のメリット

FinFET方式ではゲートを制御してソースからドレインへ流れる電流をゼロにしたくても、一部の電流がすり抜けてしまうことがあります。このすり抜けてしまう電流をゲートリーク電流と呼ばれます。これはチャネルの下部がゲートに囲まれていないため、そこを通って電流が流れてしまうために生じます。(上図の灰色の長方形のうち水色と接している部分)

トランジスタを微細化するためには、ゲートも薄型化、小型化する必要がありますが、微細化が進むにつれてリーク電流の増大が問題となってきました。しかし、GAA-FET方式であればチャネルの4面全てをゲートで囲むため、リーク電流を押さえることができると見込まれています。

ラピダスに勝機はあるのか

では最後にラピダスの勝機について見ていきましょう。

ラピダスは、「IBMと2nmノード半導体の共同開発パートナーシップを締結」と発表しています。IBM者は世界初の2nmノード半導体の試作に成功した企業であり、そこから技術提供を受けて開発を進められるというのは大きなアドバンテージになります。

また、日本には「東京エレクトロン」をはじめとする強力な半導体製造装置の企業があるため、一度量産化技術の開発に成功すれば一気に量産できる体制が整っています。

しかし、日本にはそもそも現在主流となっているFinFET方式トランジスタの開発技術がなく、そこから一足飛びにGAA方式に取り組むのはキャッチアップが難しいと思われます。

また、研究開発費という点でも懸念があります。米国はバイデン大統領が500億円ドル(5.5兆円!)の半導体産業投資を含むCHIPS法案に賛意しており、中国は半導体研究・開発に合計10兆円の投資を投じる計画と発表されています。欧州(EU)でもデジタル移行(ロジック半導体、HPC・量子コンピュータ、量子通信インフラ等)に1345億€(約17.5兆円!)を投じる計画が出ています。

翻って日本では、半導体関連の予算には1.4兆円しか計上されていません。半導体の研究・開発には莫大な費用がかかるため、資金面で劣る日本がこの逆境をどう乗り越えるのかは課題になりそうです。

おわりに

今回は昨今話題になっている半導体の新会社ラピダス(Rapidus)について取り上げました。

記事中でも紹介したように半導体は今後のデジタル社会を支えるための重要な基盤であり、半導体産業の競争力はそのまま国の競争力にもつながるので、ラピダスにはぜひ2nmノード半導体の量産化に成功してほしいです。

参考文献

半導体とは : 日立ハイテク
半導体とは、電気を通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を備えた物質です。この章では、半導体に元も多く使われている素材であるシリコンや、半導体の歴史、IC(集積回路)について説明します。
半導体業界を知る│採用ページ│東京エレクトロンデバイス株式会社
東京エレクトロンデバイス株式会社の採用サイト。半導体の基本的な事から、IT、IoT、AIなど未来の話まで。半導体業界のことをわかりやすく解説します。
半導体・デジタル産業戦略検討会議 (METI/経済産業省)
インテル® 製品: プロセッサー、インテル® NUC、メモリーとストレージ、チップセット
インテル® Core™ プロセッサー・ファミリー、インテル® Xeon® プロセッサー・ファミリー、インテル® Arc™ グラフィックスなどのインテル製品情報をご覧ください。

https://semiengineering.com/chipmaking-in-the-third-dimension/

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